第38回 子ども達も遊んだ キブシ

文:山下広行(森林インストラクター) 画:岸本文枝(ひょうご森のインストラクター)

 早春に花を咲かせる木のひとつにキブシがあります。多くの活動地でも谷沿いの林道に脇などで、ちょうど花が咲いている、あるいは蕾が膨らんでいることと思います。学名のpraecoxは「早過ぎる」や「時ならぬ」などの意味があるとか。
 ほかの早春に咲く木の花と同様に、葉っぱに先立って小さな黄色の花をつけますが、この花の特徴は10~20個の花が房状に集まり、この房が枝先に幾本もつくこと。まるでかんざしの下げ飾りのようです。
 キブシという名前は、木のフシという説明が一般的です。フシとは本シリーズの28回目に書いたヌルデの葉っぱにできる虫こぶのことですが、キブシの実にはタンニンがたくさん含まれており、黒色染料の材料としてフシの代用として用いられたことからつけられた名前だということです。そう言えば、同じく34回のヤシャブシの実もフシの代用として使われたようです。蛇足ながら同18回のコブシはこれとは関係ありません。
 megumi38ほかに、黄色の花が房状についている形から黄藤がキブシに転じたとの説もあります。フシの代用として用いられていたのは事実であることから「木のフシ」説が正しいと思いますが、実用性に基づかない「黄藤」説も捨てがたく思います。
 さてこのキブシ、落葉の低木であり、花の時期以外はそれほど目立つ木ではありませんが、かつてはフシの代用以外にも結構暮らしに使われていた木だったようです。傘の柄、樽の呑み口、木栓、爪楊枝等々。  そんな中でユニークなのが木の材の利用ではなく、髄(ズイ)という部分の利用。キブシの髄は真っ白なスポンジ状であり、かつて油で灯をともしていた時代にはこれを灯心として使っていたようです。灯をともすのに使うということは、地域によっては生活の必需品だったのかもしれません。
 ところで、キブシの髄は灯心として生活するうえでの材料としてだけではなく、子供たちの遊びの材料としても有用だったようです。まず髄を取り出すことそのものが遊びだったのでしょう。短く切り取った枝の一方から細い棒状のもので押すとこれが取り出せ、これだけでも面白いものですが、さらに取り出した髄の長さを競って遊んだだろうことが想像できます。また取り出した髄で花とか鳥の形を作ったり、親指と人差し指に挟んで飛ばしっこするなどのほか、単純に小さく切ったものをくわえて口の中に入れたり出したりして遊ぶことも。またスポンジ状であることから、花や実の汁で染めて遊ぶこともあったようです。(「野に遊ぶ:斎藤たま」より)
 森の生き物たちは、食用にしたり道具として利用するなど実用的な面だけでなく、このように子ども達の遊びの材料としても森のめぐみだったのです。