第44回 素敵な名前に変えてあげたい ヤマドリタケモドキ

文・写真:辰己 正美(森林インストラクター)

キノコとのつきあいは、もうずいぶんと長い。高校時代に生物部に所属し取り組んだテーマがカビの研究。カビの培養と顕微鏡を観察する毎日で、英字のカビの 図鑑に頼ってカビの同定。レベルが相当高かったのか、その研究報告論文で読売科学賞をいただいた。その時の指導教諭はその後もカビの研究をされていたが、 いつのまにかキノコに方向転換。年賀状にはいつもキノコの話題と君もキノコをやらないかとお誘いがあった。
随分経ってから、十数年前だろうか、先生が主宰されている兵庫のキノコグループのメンバーに加えていただいた。丁度その頃里山保全の活動を知った。山の 手入れも興味深く、また、手入れをすればキノコもたくさん採れるのではとの打算も働いた。こうして、私の里山保全の活動とキノコ探索が始まった。
今回は、傘の裏が襞ではなく管孔であるイグチの仲間を紹介する。このイグチの仲間でおいしい野生キノコといえば、まず挙げたいのはヤマドリタケモドキで ある。このキノコ、梅雨の頃から秋にかけて、条件がよければ、大量に採れる。フランスでセップ、イタリアでボルチーニと呼ばれもてはやされるヤマドリタケ だといわれていたが、その後違いが分かり、ヤマドリタケモドキという名前に変更された。キノコの名前にはこのモドキという名がつくものが多いが、独立した 名前をつけてもらえず、かわいそうな気がする。
ヤマドリタケの仲間は、柄の上部に細かな網目模様があり、美味とされるものが多い。今年の7月に出会えたあるヤマドリタケ、名前がわからず捨ててしまお うかと随分迷い、翌日になって、ようやくそれらしいキノコにたどりつき胞子を顕微鏡観察までしてアケボノヤマドリタケと確信したが、ピンクがかったとても 美しいイグチで、これもとても美味しかった。ちなみに学名のラテン語部分に「華麗な」という意味の言葉が入っている。
滅多に目にせず、これまでの写真図鑑にも載っておらず、最新情報が載っている「北陸のきのこ図鑑」でようやく判明したアケボノヤマドリタケでもとてもい い名前をもらっているのだから、たくさん採れてとても美味しいヤマドリタケモドキは素敵な名前に改名してあげないと不公平だと思う。
megumi44 さて、ヤマドリタケモドキ、虫もとても好きなようで、なかなか良い状態のものは見つからず、キノコバエの幼虫が食 い 荒らして柄がぶよぶよしているものが多い。傘がぬるりとしていてとても美味しいから、柄は捨てて、傘の部分だけでも薄い塩水で虫だししていただく。いい個 体であれば、濡れナプキンで汚れを落とすだけでいい。どんな料理にも合う優秀なキノコであるが、フライパンでバター炒めした後にダシ醤油で味付け、胡椒を 少々というのが、他のキノコでもそうだがお酒のあてにとてもいい。また、山渓の「日本のきのこ」では、刺身風に食べるのは季節の豪華な一皿と紹介されてお り、私はさっと湯がいて水洗いして水分を取った後、刺身風に包丁を入れ、器に盛り付け、冷蔵庫で冷やしたものを刺身醤油とわさびで頂いている。
ムラサキヤマドリタケなど、ヤマドリタケモドキの仲間のイグチもいろいろあり、梅雨が長く、7月に入って雨も多かった今年は、他の美味しいキノコの発生も大いに期待できるのではないだろうか。