第51回 飢饉に備えて植えられた リョウブ

文:山下広行(森林インストラクター)  画:岸本文枝(ひょうご森のインストラクター)

 花が少ない夏の森で枝先に白い花を咲かせているのはリョウブ。一般的には馴染みがない名前ですが、森の活動に参加されているみなさんなら多くの方がご存知だと思います。瀬戸内海側の里山から但馬の比較的標高が高い山まで県内のどの地域でも見られ、またその数も比較的多い樹であり、次の特徴からも印象に残 ります。
 樹皮は茶褐色ですが板状にはがれて斑模様になり、また樹皮がはがれ落ちた幹は滑らかで一見サルスベリの様です。地方によっては実際にサルスベリと呼ぶところもあるようです。もっとも、若い樹の樹皮の外観はかなり違っているものもあるので、ほかの樹と間違えそうになることがあります。
 こんな話もよく聞かれると思います。リョウブの若葉は食べることができ、かつてはごはんと一緒に炊いて食べられたと。もう少し付け加えると、若葉だけではなく成長した葉っぱも食べられたようで、また乾燥させれば保存も効くことから、かつて救荒植物(飢饉など食料が不足するときに代用とされる植物)として扱われていたようです。このことから、どこかの地方の領主などがおふれを出してリョウブを植えさせた、あるいは貯蔵させたので、おふれ⇒法令からこの樹の名前が令法(「れいほう」あるいは「りょうほ」⇒リョウブ)になったという類の話も聞きます。この説明はもっともらしく聞こえますが、似たようで少しずつ違った話もいくつかあり、また全くの異論もあるので、活動の合間の話題の一つにしておくぐらいがよさそうです。
 異論の一つが、リョウブとは竜尾のことであり、これは総状花序と呼ばれる房状に集まった花の形を竜の尻尾に見立てたものという説です。オカ(岡)トラノオ(虎の尾)という野草がありますが、虎があれば竜もというわけです。リョウブという名前(読み)が先にあって、先の「おふれ」の話からいつのまにかその音に近い令法の字があてられたと説明されています。
 食べられると言えば、リョウブの樹皮は鹿がお好みのようで、あちこちの森で樹皮が大きく剥がされたリョウブを見ることがあります。鹿が増えすぎているとともに、鹿の餌になる草が生えるような草原性の環境-樹を皆伐したところが減っているということも要因の一つだと思われます。
ryoubu 私たちとリョウブとの関わりの一つは、ささやかですが、薄い輪切りにして名札としての利用があります。研修会やイベントなどで提供される名札を何枚もお持ちの方もおられると思いますが、材質が緻密で固く、割れにくいリョウブは、名札の材料としても使いやすいのですが、その性質から昔から細工物などにも使われていたようなので、もっと大きな木工細工に使われてはいかがでしょうか。