第59回 里山が育てる ササユリ

文・写真:山下 広行

 この時期、いくつかの活動地ではササユリの花が見られることと思います。
 ササユリは学名でLiliumjaponicumと呼ばれていますが、これから推察されるように日本の固有種であり、また日本では本州中部から九州にかけてだけ分布しているユリです。
 明るく開けた草地や山地の林縁部で見られ、葉の形が笹(ササ)の葉に似ているから、あるいは笹が生えているところでよく見られることからササユリ、というのが語源の一般的な説です。確かにササの葉によく似ており、またササと一緒に生えているのを見ることが多く、花が咲いていなければ私は見落としてしまいます。昆虫や動物が擬態とか保護色により敵から身を隠しますが、植物にもそのような工夫があるのでしょうか。
 数あるユリの仲間の中で特にこのササユリが好きだという方は多いようで、ササユリについて書かれたいくつかの随筆などで、「とても優美で気品に満ちている」とか、「すっきりとした清楚な風情がよい」などとその姿・形を、また「馥郁(ふくいく)と漂う、かすかに甘い香りが堪えられない」などと花の匂いを讃える文章がみられます。確かに、細い茎ですっくと立ち、派手さのない白か薄紅色でうつむき加減に咲くササユリは日本人好みの花だと思います。あの「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花」の百合とはササユリを指すのかもしれません。
 ところで、森を明るくすれば、あるいは草刈りをしてやればササユリが咲くようになるというような話はよく聞かれるところですが、私はこれを他の植物と同様に、単に光が必要なのだからと、ササユリ(あるいはユリの仲間)特有のこととは考えずにいましたが、最近になってこのことの意味をようやく知りました。
 種から芽を出したササユリは、数年間は長さが10cmにも満たない、そして茎がない一枚葉の状態で生育し、この一枚葉による光合成により鱗茎(いわゆるユリ根)が十分成長してからやっと茎を伸ばして花を咲かせます。従って、発芽してから数年間は林床、と言うよりも地面に、十分な光が当たる環境が必要なのです。
 このことから、ササユリは木が伐採されたり頻繁に草刈りが行われた「里山」でこそ生きてこられた植物だということがわかります。人はササユリが咲くのを楽しみにしていますが、ササユリは森に人の手が入ることを心待ちしているのかもしれません。
 もっとも、人が手を入れると言っても、もちろんササユリそのものの採取はいけません。近年、ササユリが減っていると聞かれ、里山の放置とともに人による採取が原因と言われます。「・・・・やはり野におけ蓮華草」という句がありますが、ササユリもそっと野に置いて愛でたいものです。