第61回 ややこしい、いろいろなボダイジュとシナノキ

文・写真:山下 広行

 今年の森林ボランティア講座最終回(11月19日・20日)の一日目はあいにくの天気となってしまい、雨があがるのを待つ間に受講者のみなさんにこんな話しをして時間つなぎをしました。
 この会場(エーデルささゆり)の1階にあるレストランの名前はリンデンですが、これはリンデンバウムからつけられた名前だと思います。なぜなら、この施設の廻りには多くのリンデンバウムまたはその仲間の樹が植えられています。リンデンバウムとは、「泉に沿いて茂る菩提樹・・」と歌われるボダイジュですが、正確にはセイヨウボダイジュであってボダイジュとは違う樹です。
 ボダイジュという樹はちょっとややこしい話があります。ボダイジュ(菩提樹)と言えば、お釈迦さまがその下で悟りを開かれたと言われている樹ですが、この菩提樹と「泉に沿いて・・」の菩提樹とは全く別物です。お釈迦様の菩提樹は今ではインドボダイジュ(印度菩提樹)と呼ばれている常緑のクワ科の樹ですが、仏教が伝わった中国ではインドボダイジュがないことから、葉っぱの形が似ているシナノキ科の落葉樹に菩提樹(ボダイジュ)と名前をつけたようです。また、ドイツなどヨーロッパにあるセイヨウボダイジュ(リンデンバウム)はボダイジュとは仲間ではあるものの別種ですが、「泉に沿いて・・」の原詩を訳した方が「泉に沿いて茂る西洋菩提樹・・」では歌にならないと考えて単に菩提樹としてしまったのでしょう。従って日本では、お釈迦様の菩提樹(インドボダイジュ)と中国の菩提樹(ボダイジュ)、そして「泉に沿いて・・」の菩提樹(セイヨウボダイジュ)がしばしば混同されます。
 ところで、お釈迦さまとの関係から日本にはお寺などで“ボダイジュ”が植えられているところがありますが、当然インドボダイジュではありません。また(中国の)ボダイジュは日本に自生しておらず、日本に自生している(東北・北海道に分布)のはオオバボダイジュであることから、お寺にある多くはこのオオバボダイジュかもしれません。あるいはボダイジュの仲間で日本に広く分布しているのはシナノキなので、このシナノキをボダイジュとして植えているお寺もあるかもしれません。もうひとつ付け加えると、ヘラノキと呼ばれる樹もこれらの仲間で日本に自生していますが、兵庫県では神戸市北区の一角でだけ確認されていますので、まずお寺に植えられていることはないでしょう。
 さて、これらのボダイジュの仲間の特徴のひとつは、いずれもこのような実をつけることです。実をつけている柄に葉っぱのようなものがついていますが、これは苞と呼ばれているもので、ヘラノキはその形(ヘラ状)からつけられた名前でしょう。実が落ちる時にはこの苞ごと落ちるため、苞がプロペラの役割りをして実全体が回転して落ちます。種を風で遠くまで散布する巧妙な仕掛けです。
 最後に、シナノキのシナとはアイヌ語で結ぶ、縛る、くくるということのようで、かつてはシナノキの樹皮の繊維でロープを作ったり、また布も織られたようですが、リンデンバウム(Lindenbaum)のLinも繊維を示す言葉だということであり、これらの仲間は世界で共通した森のめぐみをもたらしてくれたようです。
 先ほどお話ししたように、日本に広く分布していると言われるシナノキですが、比較的冷涼な地域に分布している樹のようで、私は但馬の標高が高いところでしか見たことがありません。