第65回 里山には小判がいっぱい ヤブコウジ

文:山下 広行  写真:森 逸男

megumi651 木々がすっかり葉っぱを落とした里山で足もとに赤い実を見つけることがあります。そのひとつにヤブコウジがあります。樹高はせいぜい10~20cm程度。除間伐の作業をしていると気がつかずに踏みつけてしまっているかもしれません。
 ヤブコウジを漢字で書くと藪柑子。藪に生える柑子ということで、柑子はミカンの一種ですが、ヤブコウジはミカンの仲間(ミカン科)ではなく、自らの名前がつけられたヤブコウジ科に属します。また、ヤブコウジは古くはヤマタチバナ(山橘)と呼ばれていたようですが、タチバナもやはりミカンの仲間、と言うより、古くから自生していた日本固有の柑橘類です。赤い実なのになぜミカンの仲間のように呼ばれたのでしょうか。
 ヤブコウジは正月用の寄せ植えに松・竹・梅や福寿草などと共に植えられますが、その赤い実と冬でも葉が緑濃いことからめでたい植物のひとつとして使われるのでしょう。それはあの落語の「寿限無」からもわかります。「寿限無寿限無、五劫の摺り切れ、・・・・ やぶらこうじのぶらこうじ・・・・」の「やぶらこうじ」とはヤブコウジのことです。生まれた子どもにめでたい名前をつけたいと相談された和尚さんが、いろいろなめでたい事とともに、ヤブコウジは「春は若葉を生じ、夏に花が咲き、秋に実を結び、冬は赤い色をそえて霜雪をしのぐというめでたい木じゃ」と紹介しています。
 めでたいと言えば、冬の里山にはその名もめでたいマンリョウ(万両)、センリョウ(千両)があり、やはり正月の縁起物として用いられますが、これらとの兼ね合いからかヤブコウジは拾両とも呼ばれています。(そして、百両はカラタチバナ、壱両はアリドウシとも。)
 megumi652拾両が今の貨幣価値でどれ位なものなのかよくわかりませんが、ヤブコウジは実際に(たぶん)拾両どころではない値打ちがあったことがあるようです。
 HPを見ると、今から120年ほど前の明治時代、新潟に端を発し、全国的に投機の対象として大流行し、最も値段が高かった時には現在の価値に換算して1000万円以上で取引されていたとの記事があります。
 おっと、だからと言って、今里山に入ってヤブコウジを採ってきても、まず誰も買ってくれませんよ。高価だったのは葉に模様(斑)が入るなどの変わり物だけ。江戸時代の日本では花卉園芸が発展し、そのひとつとして「いくつかの小型の栽培植物を尊重して、奇妙な品種を作り出してきた(中尾佐助「花と木の文化史」)」ようで、投機の対象となったヤブコウジもその流れで生まれたのでしょう。