第66回 ヤマシャクヤクを独り占め フタスジカタビロハナカミキリ

文・写真:佐 藤 邦 夫

10年ほど前の5月、フタスジカタビロハナカミキリを写真に収めようと、かねてより目をつけていたボタン科のヤマシャクヤク群落があるスギ林を訪れまし た。残念ながら花はすでに散っていたので、標高を上げてみることにしました。登山道沿いに点々とあるヤマシャクヤクや残雪を見ながら、平行する谷が尽きる あたりまで登ると、数株から十数株単位であちこちに花が咲いている場所が見つかりました。よく観察すると、薄暗い手入れのされていない場所にはありませ ん。林内や道沿いのやや開けた場所、谷筋のよく日の当たる場所等にあるのがわかります。
咲いている花をいくつか覗くと、やはりいました、大きな花を独り占めにし、花粉まみれになったフタスジカタビロハナカミキリが見つかりました。中には♂♀つがいでいるもの、花びらに穴をあけているものもいます。
撮影も一段落し、現在地を確認しようと近くの尾根まで登ってみると、標高1,000m近くあるその尾根の反対側の谷もスギが植林されています。突然、そ の谷のほうから大きな息遣いが聞こえてきました。よく見るとツキノワグマがこちらに向かって登って来るではありませんか。あと5mほどのところで、「オー イ」と声をかけたところ、クマはこちらに気付いたのか反転して谷へ下りて行きました。その後ろを子グマが必死に追いかけているのを見て、出会い頭でなくて ほっとしたと同時に、写真を撮り損ねて残念という何とも複雑な気持ちになりました。
フタスジカタビロハナカミキリはヤマシャクヤクの地際部に産卵し、孵化した幼虫は根茎部を食べ、成虫は花弁や花粉を食べるという、ヤマシャクヤクに依存 した生活を送っています。つまり、ヤマシャクヤクがなければフタスジカタビロハナカミキリは生存できないのです。ヤマシャクヤクにとっても、残雪のある早 春にこれだけ大きな花の花粉を媒介できる昆虫はそうはいません。お互いに持ちつ持たれつの関係で進化してきたのでしょう。
ヤマシャクヤクは山草愛好家に人気が高く、野外ではめったに見ることができませんでした。ところが、シカの不嗜好性植物ということで、最近は目にする機 会が多くなっています。同様に、サクラソウ科のクリンソウは、兵庫県版レッドデータ2003ではAランクでしたが、同じくシカの不嗜好性植物であるため県 内各地で群落が復活し、兵庫県版レッドデータ2010ではBランクになりました。宍粟市内にもすばらしい群落があり、ここ数年、目に見えてその大きさを増 しています。ヤマシャクヤクもまた、クリンソウと同じようになるのでしょうか。
ヤマシャクヤクの花はその堂々たる姿に似ず、すぐに散ってしまうので、時期が合わないとなかなか見ることができません。運良く花を見つけたなら、そっと中を覗いてみて下さい。食べ物に埋もれて鎮座するフタスジカタビロハナカミキリがきっといます。
でも、クマには気をつけましょう。そこはクマの棲家でもありますから。