第72回 田舎暮らしは甘くない

文:池田 幸恵

 20数年前ここに移住して間のない頃、広い田畑を見ながら「できた米や野菜はきっと食べきれないから、どうしようか。」と”取らぬ狸の皮算用“をしていた。がその頃は食べ盛りの子ども2人もいたし、お金も余裕無く、出来た物いただいた物で必死にやりくりしていた。
 そのうち子ども達とも離れて暮らすようになり、最初は米や野菜を送っていた。ご多分に漏れず送っても喜ばれず、送らなくなった。と言うか、その頃から鹿・猪などの食害がひどくなり、余るどころか彼らの食べ残しを私たちが食べる羽目に。
 畑の草を抜くと作物のできがよくわかり、食べ頃になると「どうぞお召し上がり下さい」と言わんばかりに目立つ。悔しいので、ほとんど草を抜かず手を抜くことにした。それでも、彼らは嗅覚がすぐれているのだろう。山芋やさつまいもは猪が大好きで何度も食べられ、何とか猪の被害を免れても、ハタネズミが綺麗に平らげる。ハタネズミはモグラの穴を利用し地下生活、対策は外敵から目立つように草を綺麗に抜くか殺鼠剤、どちらもイヤで駆除できず。川沿いの畑では草にカヤネズミの巣(イネ科の草を丸めた鳥の巣のような)が作られているし、山裾の畑には山のネズミ・アカネズミもいて、ご丁寧にドングリや栗を畑に埋めてくれる。
 たった一羽飼っている鶏の卵を狙う者もいる。この頃卵を産まないなぁと思っていた時、産卵箱に手を入れ、ヘビに触ってしまった!数日後、産卵箱でとぐろを巻いている大きなアオダイショウを捕まえた。卵を飲み込んでいて、押さえたら殻の割れる音がしたとか。もちろんこれはへび年の主人にしてもらったのだが・・
 先日は床下でゴトゴト音がするので、調べるとアナグマ親子三匹がお住まいに。静かな夜中にはうるさいので、色々手を尽くしたが出て行ってくれない。結局箱罠を借りてきて、皮付きバナナをセット。ちょうどその頃には子育てが一段落したのか、近くの山の穴蔵に帰宅したようで静かになった。ほったらかしだった箱罠の皮が黒くなったバナナにハクビシンがかかった。赤くなり始めたトマトを食べた犯人か?
 あぁ、最近では熊の目撃情報もあり、わが家周辺は生き物天国!いや、人間は生物の一種であることを痛感。彼らに負けないよう何とか踏ん張って食べ残しの米と野菜、食べられる野草、こんにゃく(こんにゃくは猪は食べないと思っていたけど、最近学習したのか食べていた!)などで食いつないでいこう。食べ頃の野草や時々無傷で収穫できる野菜は、とっても甘くておいしい。田舎暮らしは、こんなちっぽけなしあわせを見つけることができる人にお勧めである。