第77回 がんばれ!ウチワヤンマ

文/写真:佐藤 邦夫

 ウチワヤンマというトンボがいます。尾の先の部分が団扇のように広がった大型のトンボで、虫採り少年だった頃のあこがれの的でした。大きいのでヤンマと名前がついていますが、ヤンマ科ではなくサナエトンボ科に属しています。ヤンマ科は左右の複眼が線でくっついていますが、サナエトンボ科は左右の複眼が離れています。また、止まり方もヤンマ科はぶら下がる性質がありますが、サナエトンボ科は石の上や突起物の上に止まります。そのウチワヤンマが最近はあまり見かけなくなりました。かわりによく見かけるようになったのが、少し小さく華奢なタイワンウチワヤンマです。見分け方は団扇部分に黄色い模様があるのがウチワヤンマで、模様が無いのがタイワンウチワヤンマです。1980年代の後半に淡路島から兵庫県の本州部に上陸したタイワンウチワヤンマは瞬く間に分布を広げ、今では瀬戸内側のため池で普通に見られるようになりました。
 ウチワヤンマは大きなため池の水辺を巡回飛行し、水面から突き出た棒の先などによく止まります。なかなか止まらないヤンマ科のトンボとはここでも大きく違います。幼虫は大きなため池の深い部分から見つかります。外から見ただけではわかりませんが、このようなため池の中はブラックバスやブルーギル、ミシシッピアカミミガメ、ヌートリアなどの外来生物に席巻され、コイなど一部の種類を除いて在来の生物はなかなか見つかりません。かっては外来生物の代表格だったアメリカザリガニやウシガエルも大きな池ではあまり見かけなくなりました。子供の頃に魚掬いの網に入る常連だったゲンゴロウやミズスマシ、タイコウチなどの水生昆虫も今では絶滅が危惧されるような状態です。深い池の底に棲むウチワヤンマの幼虫が外来生物の脅威から身を守り、無事に羽化をするのはたいへんなことでしょう。
 加古郡稲美町にある加古大池は兵庫県で最大のため池です。池の東側には人工の小さな池が数個作られ、それぞれテーマを持ったゾーニングがされています。ここでは、様々な水辺環境が作られ、それなりに適応したトンボが見られます。しかし、本体の加古大池は水生植物も貧弱で、わずかな種類のトンボが見られるだけです。しかし、ウチワヤンマだけはかなりの数が見られます。このような劣悪な環境でもウチワヤンマだけはたくましく生きているようです。
 タイワンウチワヤンマは水生植物の多い浅い池でも幼虫は見つかります。両種の間には幼虫の生息環境に大きな違いがあるので、タイワンウチワヤンマがウチワヤンマの生息を脅かしているわけではありません。両種が見られる池では水生植物の多いところにタイワンウチワヤンマ、水生植物があまり見られないところにウチワヤンマというように棲み分けをしています。また、出現時期も半月ほどウチワヤンマが早く、6月初旬から成虫が見られます。いずれにしろ、昔からのため池の住人ウチワヤンマと新参者のタイワンウチワヤンマが仲良く共存できる環境をいつまでも残しておきたいものです。

ウチワヤンマ(小野市浄谷中池)   タイワンウチワヤンマ(加東市平池公園)
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団扇部分に黄色の模様がある   団扇部分に黄色い模様が無い、   
          逆立ち状態で止まることが良くある