第80回 目立ちたい?目立ちたくない? ビロウドハマキ

文/写真:佐藤 邦夫

 新緑の季節も終わり、日増しに緑が濃くなっていく里山では、むせ返るような匂いとともにクリの花が咲き始めます。クリの花はこの時期に出現する昆虫たちにとって重要な蜜源(食糧源)となっているらしく、様々な昆虫が集まってきます。日当たりの良い満開の花にはカミキリムシ、ハナムグリなどの甲虫類が大きな羽音をたてて飛んできました。ハチやアブ、アカシジミやヒョウモン類などのチョウも訪れたいへんな賑わいです。

クリの花で吸蜜する初夏型

クリの花で吸蜜する初夏型

 
セイタカアワダチソウの花で吸蜜する初秋型

セイタカアワダチソウの花で吸蜜する初秋型

 よく見ると、この賑わいを避けるように、日陰のあまり目立たない花に一匹の美しい蛾が訪れていました。カメラを向けるとヨチヨチとぎこちなく花の裏側に回り、裏側に指を差し入れるとまたヨチヨチと元の位置に戻ってきます。小さく細い体に不釣合いな大きく重そうな翅、平安時代の十二単を着ている女性を思い起こすような愛らしい蛾です。この蛾の名前はビロウドハマキと言い、翅を広げた長さが4~5cmほどあり、2cm(1円硬貨の直径)前後の小さな種類が多いハマキガの仲間にあって最大の種です。
 南方系の種らしく、温暖化に伴い最近は東京近郊でも見つかっていますが、昔は近畿中心の分布をしていたことから、移入種(帰化種)という説もあります。成虫は初夏と初秋の年2回出現し、幼虫はハマキガという名前のとおり広葉樹の葉を糸で綴りその中に潜んでいます。夏に孵化した幼虫はカエデ類などの落葉樹を食べ、秋に孵化した幼虫はアラカシ、タブ、アセビなどの常緑樹を食べ、綴った葉の中で越冬します。このような、季節により落葉樹と常緑樹を使い分ける昆虫はあまり知られていません。四季がある日本の気候に見事に適応した例でしょう。
 写真を見てわかるように頭は小さく全体のフォルムに溶けこんで目立ちませんが、翅の先端は赤く逆に目立ちます。これは捕食者の注意を翅の先端に向け、大切な頭部を護るためのものだと考えられています。花で吸蜜しているときは不活発なビロウドハマキですが、緑の葉などに止まっているときは人の気配に敏感で、カメラを向けると素早くはないもののパタパタと飛んでいきます。また、カブトムシなどが集まる樹液にやってくることもあるようです。
 ところで、ビロウドハマキの美しい色と模様について、これは警戒色であり、そう書いてある本も目にします。しかし、擬態する対象も見当たらず、動きが鈍く、有毒昆虫でもないこの蛾にとって目立つメリットは何もありません。むしろ、枯葉だったり、黄色や白色の集合花に止まっているとなかなか見つからないことを考えると、この模様はトラやヒョウの模様と同じように、背景に溶けこむ効果があるように思います。住宅街の庭木や生垣でも発生しているのをよく見かけるので、一度探してみてはいかがでしょうか。