第82回 謎の大発生 クロカタビロオサムシ

文/写真:佐藤 邦夫

 新緑の美しいゴールデンウィークの昼下がりでした。樹木に覆われたハイキングコースの一角で耳を澄ますと、パラパラとひっきりなしに音がしています。また、あちこちでカサカサと落葉が動く音も聞こえます。木漏れ日を透かして見るとたくさんの鱗翅目(蝶や蛾の総称)幼虫が糸を引きながらぶら下がっていました。
その下には黒い3cmほどの甲虫がいます。地上に降りてくる幼虫を待ち構えているようです。この甲虫はクロカタビロオサムシといい、漫画家の故手塚治虫氏の名前の由来となったオサムシの仲間です。(彼は子供の頃から昆虫が大好きでいつも昆虫の絵ばっかりを描いていました。 特に昆虫の「オサムシ」が好きだったので、手塚治虫と描いて「てずかおさむし」というペンネームにしました。でもデビューの数カ月後に「手塚治虫」と描いて「てずかおさむ」と読むようにしました)
歩行虫とも書くように多くの種は後翅が退化して飛翔能力が無く、地上でミミズやカタツムリを捕食しています。
 しかし、カタビロオサムシの仲間だけは後翅が退化せず飛翔能力があるため、樹上で鱗翅目幼虫を捕食しているようです。地面は飛べないオサムシが活動する場所だからです。
 文頭のパラパラは鱗翅目幼虫が糞を落とした時の音で、カサカサはクロカタビロオサムシが落葉の上を歩いたり、落葉の下で交尾をしている音ですが、クロカタビロオサムシと共に鱗翅目幼虫も大発生していることがわかります。

よく目にする クロカタビロオサムシ

よく目にする クロカタビロオサムシ

 
アベマキの樹幹で鱗翅目幼虫を捕食する

アベマキの樹幹で鱗翅目幼虫を捕食する

 クロカタビロオサムシは全国的にとても珍しい種類でしたが、2013年に近畿を中心に大発生が報告されました。それまで数えるほどしか記録がなかった兵庫県でも、大阪府境から岡山県境まで多くの地点で大発生が報告されています。この大発生も3年後にはほぼ終息を迎えたようで、2016年に再度この場所を訪れた時は1頭も確認することができませんでした。別の場所でいくつかの個体を確認しましたが、多くは樹上で確認され、通常の発生に戻りつつあるようです。
 過去の記録を調べてみると、東日本で一度だけ大発生が記録されています。この時はブナアオシャチホコという蛾の幼虫の大発生と関係があるのではないかと言われていました。今回の近畿の大発生でも同時期にマイマイガという蛾の大発生が報告されています。ところが、実験ではマイマイガの幼虫のような毛虫はあまり好まず、毛のない芋虫を好むことがわかりました。
 大発生にはまだ解明されていない様々な要因があるようで、謎は深まるばかりですが、森づくり活動時に見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。