第83回 ♪リー・リーのアオマツムシ、♪♪チンチロリンのマツムシ

文/写真:佐藤 邦夫

 ある日のテレビ番組のことでした。闇の中に潜む黒装束の男、頭の上からはリー・リー♪という虫の声が盛んに聞こえてきます。おや?確かこれは時代劇、江戸時代にはいなかったはずの虫がなぜか鳴いていました。この声の主はアオマツムシと言い、明治時代に中国大陸から日本に侵入した帰化昆虫です。よく似たマツムシは日本の在来種で草むらに生息し、チン・チロリン♪と独特の音色で鳴くことで有名です。

 緑色のアオマツムシは茶色のマツムシと違い、樹上で暮らし、地上に降りることはありません。当初は東京都心や近郊の市街地、公園などで鳴いていましたが、戦後の高度経済成長とともに、瞬く間に全国至る所で鳴き声が聞かれるようになりました。主に生息するのは都市公園や埋立地、街路、住宅地などと、隣接する林の縁で奥には入りません。カシやシイのような常緑樹よりも、サクラやケヤキなどの落葉樹のほうを好むようです。では、なぜこれほどまで急速に分布を広げたのでしょうか。アオマツムシは生息する樹木の枝や幹に円形の穴を穿ち、その中に産卵します。また、樹木の植栽は樹液の流動が始まる春までに行われます。このため、産卵された樹木が移植された場合、移植先で孵化し生育することになります。孵化した幼虫は芽吹いた若葉を食べ8月頃には成虫になり、お盆の頃から10月中頃まで鳴いています。鳴き始めの頃は夜間しか鳴きませんが、9月も中旬を過ぎ、気温が下がり始めると昼間でも鳴くようになります。このようにして、アオマツムシは飛躍的に分布を拡大することに成功したわけです。

 一方、在来種であるマツムシは河川やため池の堤防、農地の縁の草むらなどに生息しています。これらの場所は常に開発の対象となりえる場所で、年々、生息地が減少している状況です。最近、テレビ番組で西日本最大の繁華街である大阪梅田の緑地帯で鳴いているマツムシが紹介されていました。どうやら近くの淀川の土手から移動してきたらしいのですが、ここで世代を繋ぐことは難しいとのことでした。皮肉にも頭の上からはアオマツムシの大合唱が響いていました。両種は生息環境も違い、同じ土俵で互いに競い合っているわけではありませんが、将来には大きな違いが待ち受けているようです。

 マツムシの写真もと思ったのですが、適当な写真がありませんでした。