第84回 いつの間にかいなくなった グンバイトンボ

文/写真:佐藤 邦夫

 なんとも懐かしい姿です。胸の下に米粒のような白い物を大事そうに抱え、上下に揺れながら飛ぶユーモラスな姿は、子供の頃、普通に見かけたグンバイトンボそのものでした。グンバイトンボはイトトンボの仲間で、オスの中脚と後脚の脛の部分(脛節)が軍配状に白く広がっていることからこの名があります。
 環境省レッドデータブックでは準絶滅危惧種、兵庫県版レッドデータブックではBランクに指定されています。兵庫県では県南部に広く分布しているようですが、但馬地方と淡路島には記録がありません。しかし、記録された場所でも今は見られないというところがほとんどです。
 私が数十年ぶりにグンバイトンボと出会ったのは山間の水たまりと言ってもいいような小さな池です。この池に注目したのは、最近激減しているイシガメやウグイの群れがいることに加え、ため池ではお馴染みのミシシッピアカミミガメ、ブルーギル、ブラックバスなどの外来種が見られなかったことです。園芸種のスイレンが植えられ、ウシガエルやニシキゴイは生息していますが、何となく昔の面影が残る魅力的な池に思われました。この池ではグンバイトンボは6月に多く見られ、決して少ないものではありません。池の中央部にはほとんど見られず、縁の部分を飛び、独特な姿勢で連結産卵をしています。
 池だけではなく周辺の灌木の上、離れた林間の草地や緩い流れにも見られます。草地の縁には多くの個体が見られますが、オス、メスともに単独で行動し、連結や交尾をしている様子はありません。ここで成熟を待ち、その後、池に現れ交尾や産卵をするものと思われます。これはアカトンボの仲間にもよく見られる習性です。
 7月になるとよく似たモノサシトンボが多くなり、グンバイトンボは少なくなります。メスはよく似ていますが、オスは軍配があるか無いかで簡単に見分けられます。グンバイトンボは斜面から滲出した水が作る小さな流れや、水の綺麗な浅い池などに生息していますが、このような環境は急速に失われています。兵庫県にはまだ各地に生息地が残っているようなので、これ以上無くならないことを願うばかりです。