第85回 森の隠者 ユミアシゴミムシダマシ

                                                                                  会員 佐藤 邦夫

 初夏の黄昏時、森の中は一足先に薄暗くなってきました。コナラやアベマキの樹液に群がり、ひしめき合っていたカナブンやハナムグリ、スズメバチもいつの間にか姿を消しています。入れ替わるように、コクワガタ、オオナガコメツキ、ミヤマカミキリなどが集まっています。屋内にいるはずのクロゴキブリや大きなトビズムカデなど、あまり有難くないものもいます。少し離れた暗がりにいつの間にかユミアシゴミムシダマシが止まっていました。光を当てるとゆっくりとその場を離れようとします。

 特に珍しい種類ではなく、艶消しの真っ黒な体は3cmもあり決して小さくはないのに、なぜか存在感がありません。枯木に発生するキノコ類や朽ちた植物質を食べているようですが、いつも単独で一匹だけ、他の昆虫と争う姿も見たことがありません。ちなみに我が家の灯火に飛来したユミアシゴミムシダマシを2ヵ月ほど飼育したことがありますが、市販のマイタケが大好物でした。所属するゴミムシダマシ科は日本から400種以上が記録されている大所帯ながら、知る人はほとんどいません。

 小動物用の餌として売られているミールワームはチャイロコメノゴミムシダマシの幼虫ですが、これとて名前を知る人はほとんどいないでしょう。ゴミムシダマシ科の多くは捕まえると消毒液のような匂いを出し、これが唯一の防御手段のようです。

 ゴミムシダマシ科の特筆すべきことは、名前が示すように騙すことです。ゴミムシだけでなくカミキリムシ、テントウムシ、コガネムシ、ハムシ、タマムシ、コメツキムシ、ゾウムシなど甲虫の主要な科のほとんどにソックリさんが存在します。外国にはクワガタムシやカブトムシの仲間のソックリさんまでいます。しかもソックリさんに紛れているのではなく、異なる場所や環境で独自に生活をしています。ソックリさんでいることの意味がまるで解らないのです。世界中の海岸から森林、砂漠、高山まで陸上のあらゆる場所に生息し、群れず、目立たず、争わず、置かれた環境でひっそりと暮らし、繁栄しています。さて、ユミアシゴミムシダマシはどの種のソックリさんでしょうか。私はエゾカタビロオサムシに似ているように思いますが、この種は森林ではなく草原に生息するようです。